「価値を生み続ける企業でありたい」橋場株式会社副社長 橋場 基則さんインタビュー

経営者インタビュー橋場株式会社橋場さま アイキャッチ画像

ドライバー不足やコストの増大など、多くの課題を抱える物流業界。アパレル業界出身ながら橋場株式会社の副社長に就任し、売上を右肩上がりにしたのが橋場 基則さん(はしば もとのり)です。
今回は、橋場副社長に業績改善への想いや今後の取り組みについて、株式会社AMU代表の鹿倉 安澄(しかくら あずみ)がおうかがいしました。

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150名以上が働く 橋場株式会社の重要拠点「新砂センター」

鹿倉 本日はよろしくお願いいたします。このあたりの道を通る車は、ほとんどがトラックで、驚きました!潮見の駅では「HASHIBA」と書かれたトラックを見かけて、思わずカメラを向けてしまいました(笑)

橋場 お越しいただきありがとうございます。こちらの新砂センターは弊社の重要な拠点なんです。3,000坪の敷地には、150名以上の従業員が働いています。このあたりの方にとっては、見慣れた存在かもしれませんね。

橋場株式会社 橋場基則副社長インタビュー1

鹿倉 弊社のスタッフがこの近辺で数年働いていたようで、橋場さんのトラックをよく見ていたと懐かしそうに話してくれました。
いつもTwitterを拝見しているので、お会いするのを楽しみにしていたんです。従業員を大切にされている様子や仕事への情熱を感じるツイートをみて「きっと熱い想いをお持ちの方なんだろうな」と思っていました。本日はよろしくお願いします。
はじめに、事業についてお聞かせください。

食品を百貨店に運ぶ「納品代行」とは

橋場 ありがとうございます。弊社は物流の会社ですが、ちょっと特殊なので、かみ砕いてご説明しますね。
物流の仕事にも、宅配や大型家具専門、資材運搬など、いろいろあります。橋場株式会社では、主に百貨店(デパート)の食品を運んでいます。

橋場株式会社 橋場基則副社長インタビュー2

鹿倉 百貨店の食品というと、デパ地下で売っているお惣菜やケーキなどが思い浮かびます。

橋場 そうですね。そういった食品を店舗に届けるのが我々の仕事です。
百貨店内では、複数のブランドがさまざまな商品を取り扱っています。たいてい人の集まる繁華街にあるので、各ブランドがそれぞれ違う搬入業者を使って商品を運ぼうとすると、近隣の道路は搬入待ちのトラックですぐに渋滞してしまいます。
また多くの業者が商品搬入で店内を行き来すると、店内が混みあって、おそらく各店舗への納品が間に合わなくなるでしょう。

そこで百貨店の多くは「指定納品代行制度」を定め、流通を担う業者を指定、業務を集約させています。

橋場株式会社は、その指定納品代行業者のひとつです。アパレルではよくみられますが、弊社のように食品を専門に扱う業者は少数です。

鹿倉 ビジネスチャンスがあるのに他社が参入しないのは、なぜなのでしょうか?

橋場 一言でいえば「大変だから」です。アパレルや家具などでしたら、温度管理はそれほど気にしなくてもいいのですが、食品を扱うなら冷凍冷蔵車が必要です。車両は高級車が買えるほどの価格ですが、食品はブランド品や宝飾品と比べると低単価です。採算が合わないと思うんでしょうね。
弊社では、所有するトラックの99%は冷凍冷蔵車で、食品に特化しています。

鹿倉 ケーキのように崩れやすい商品は運ぶのも大変そうですね。

橋場 ケーキや贈答用クッキーなどは衝撃に弱いので、細心の注意を払って運びます。食品の配送に特化しているので、ドライバーや作業員が扱いに慣れているのも、弊社が選ばれる理由だと思います。

配送だけでなく、梱包や検品、保管などができるのも強みです。お店が「面倒だな」と思う作業を一手に引き受けられます。自社で行うより弊社を利用するほうが、経費が安くなるケースも多いのではないかと思います。

そもそも食品の納品代行ができる業者は少ないので、多くの百貨店様からお声掛けいただけるというのはありがたいですね。だからといって、慢心して胡坐をかいていてはいけないと思っています。

慢心せず、価値を生み続ける企業でありたい

鹿倉 営業をかけずとも仕事が来るとなれば、気が緩んでしまいそうですが、そこは気を付けてらっしゃるんですね。

橋場 正直、弊社にもそういう時期はありました。しかし、現在は大きく改善しています。家業を継ぐと決めた以上、現状維持ではなく、一歩でも前進したいと思っています。

ここ数年で、橋場株式会社が掲げているビジョンが2つあります。

一つ目は、『価値を生み続ける企業』です。
新しく入社した従業員には、「サプライチェーンの真ん中に我々がいる」と話しています。
例えば、お茶のペットボトル一つとってみても、生産者さんが摘み取った茶葉を、我々が加工場へ運び、乾燥、パッケージなどが行われます。それを飲料に加工する工場へ運ぶ役割も担います。飲料を詰めるペットボトルやパッケージも運びますし、製品を消費者に届けるために小売店にも運ぶわけです。

物流の仕事は表にはあまり出ませんが、「物流なくしては、商品に価値が生まれない。物流は非常に重要な仕事である」と、社員には知っておいてもらいたいと思っています。

鹿倉 私は銀座のデパートで菓子販売の仕事をしていたのですが、恥ずかしながら「たくさんの人の想いを乗せた商品を扱っている」という意識は薄かったように思います。

橋場 小さなことですが、「なぜ物流の仕事が必要とされているのか」を自分の頭で考える、それだけで仕事に臨む姿が全く変わってきます。
「ただモノを運ぶ人」ではなく、生産者さんや工場のみなさんなど、関わった多くの人の想いが詰まった商品を運んでいるのだと念頭に置いて、業務に臨んでもらいたいんです。

物流が正常に機能しないと、資材調達や製造、販売などがすべて停止してしまいます。食品の配送をする弊社が配送ミスや遅延によって、営業時間や工場の稼働時刻に間に合うように配送できなければ、最悪の場合、廃棄になってしまうんです。
食品ロスを減らすという意味では、「物流を止めないこと」、これが私たちのSDGsの取り組みですね。

橋場株式会社 橋場基則副社長インタビュー3

二つ目は、『時代に応じたお客様をつかみ続ける』です。

食品でもアパレルでも、時が経てば流行りは変わります。ここ数年のコロナ禍では、扱うものが大きく変わりました。時代に応じて、どこにビジネスチャンスがあるかを見極めなければならないと思っています。

弊社は百貨店の指定納品代行業者に指定していただいているため、現在の業績は安定していますが、コロナが流行して世の中の動きが大きく変わったように、いつどうなるかはわかりません。時流を素早くキャッチできるよう、いつもアンテナを張っています。

鹿倉 橋場副社長を先頭に、若い力で会社を変えていこうというエネルギーが感じられます。

橋場 アトツギではありますが、会長である父親がこれまで築き上げてきたモノをそのまま続けていく気はありません。簡単に今のポジションを得たわけでもありませんし、人脈も自分で広げてきました。
良いところは生かしつつ、時代に合わなくなったら変えていくべきです。なんとなくそのままになっている部分は、すべて見直しています。

人材育成が課題「当事者意識を持って業務に臨んでほしい」

橋場 例えば、私が入社した10年前、社内のワンフロアが不用品置き場になっていたんです。家賃が発生していますし、これは無駄だと思ったので、不用品を撤去しました。今はアパレル倉庫として使用し、利益を生み出しています。
「もったいない」と思う感覚は非常に大切なんです。備品や空間が無駄に使われていたらもったいない。当事者意識をもって業務に臨んでいれば、その「もったいない」が許せないはずです。自発的に動いてくれる社員はもちろん高く評価をしています。

鹿倉 社員が改善点を指摘すると、うるさがる会社もある中で、正しく評価してもらえるのは働く側としてはうれしいですね。
先日、御社の採用サイトを拝見したのですが、みなさんのさわやかな笑顔が印象的でした。

橋場株式会社 橋場基則副社長インタビュー4

橋場 わが社で働いてくれている以上、従業員には幸せになってほしいんですよね。良い顔で働いてくれて、その家族も幸せそうだったら、何よりもうれしいじゃないですか。「副社長は従業員びいきですね」とよく言われます(笑)
顔を出して、社の代表としてインタビューに答えてくれる仲間がたくさんいることを誇りに思います。

鹿倉 案外、幅広い年代層の方が働いているんですね。

橋場 従業員の年齢は20代から60代までと、かなりバラつきがあります。応募者の年齢も同様です。いずれは独立を考えている方やまったく関係のない業種からの転職者も多いですね。弊社では経歴や年齢に関わらず、積極的に正社員として雇用しています。

鹿倉 採用において何か課題はありますか?

橋場 地方を含めた物流業界全体を見ると、50代以上が非常に多いのが実情です。弊社のベテラン社員は会社を支える屋台骨として活躍してくれていますが、若い世代に「物流業界に入りたい!」と思ってもらいたいんです。

今後を見据えると、ベテラン社員にばかり頼ってはいられません。若い世代をしっかりと教育し、これからの物流業界を背負っていく人材を育てたいと思っています。

実は、新卒の社員が就活中に「えっ!物流業界目指してるの!?」と言われたそうなんです。若い世代にとって、魅力的な仕事になっていないという現実があります。そんなイメージを変えていきたいと思っています。

鹿倉 「物流」は力仕事で大変、というイメージがあるのかもしれませんね。

橋場 ドライバーには力仕事もありますが、そればかりではないんですよ。配送先のお客様とのコミュニケーション力も必要ですし、繊細さが求められる作業もあります。

弊社では、新卒でも中途採用でも、入社1日目は座学をしてもらいます。何のために運ぶのか?我々の仕事が社会のどの位置にあるのか?トラック運転手であれば、車両の操作手順や配送先の情報など、丁寧に研修を行います。

ドライバーだけでなく、仕分けやピッキング、経理業務など、社内にはさまざまな仕事があります。従業員が一丸となって、物流を支えているんです。

我々はお客様の大切なお荷物をお預かりしています。扱っているのはただのモノではない、と理解してから仕事に臨んでほしいと思っています。

若手に「おもしろい」と思ってもらえる取り組みを

橋場 食品を扱っているため、身だしなみには気をつけています。使用するかご台車も「橋場さん、こんなにきれいだと盗まれちゃうよ」と言われるくらいです(笑)
私自身、アパレル業界に身を置いていたので、スーツにはこだわりがあります。

鹿倉 今日も素敵なスーツを着ていらっしゃいますよね。身だしなみといえば、Twitterに載っていたデニムの制服は斬新で驚きました。

橋場 数年前に制服を「デニムセットアップ風」に変えました。新しいことを始めようとすると反対意見も多いんですが、そんなときほど、「あっ、これイケるぞ!」と思います(笑)
物流と聞いてイメージするような作業服より、着てみたいと思えるほうがいいと思って。「あそこの制服、可愛い!」と学校を選ぶ女の子からヒントを得ました。

橋場株式会社 橋場基則副社長インタビュー5

男性の仕事であるというイメージの強い物流業界、女性の雇用促進も反対の嵐でしたが、今や従業員の意見は真逆です。一か月も経つと誰も何も言わなくなりました。「良いか、悪いか」というより、皆、変化を嫌っているだけなんですよね。
積極的に女性を管理職に引き上げていますが、業務効率がよくなり、残業が減りました。性別・年齢に関係なく、優秀な人材は正当に評価するよう心がけています。

プロを目指すアスリートを雇用し支援

橋場 新しい取り組みですと、2021年から、数名ですがアスリート採用を始めました。プロを目指してスポーツをする若者を雇い、働きながらアスリートとしても活躍してもらいます。

長年スポーツに向き合ってきた子は、礼儀作法が自然と身についていますし、体力もあります。教育コストを低く抑えられるので、弊社としては「欲しい人材」です。練習や試合の都合で思うように働けないこともありますが、そこはわかったうえで雇用していますので、最大限配慮しています。

実際にプロになってくれれば社の宣伝になりますし、残念ながら夢が叶わなかったとしても、スポーツで培った力を業務にも発揮してくれるはずなので、マイナスにはなりません。

橋場株式会社 橋場基則副社長インタビュー6

鹿倉 若いアスリートを応援しながらも、会社の利益も考えてらっしゃるんですね。

橋場 「合コンでモテる会社にしたい」とよく話しているのですが、これは冗談ではなくて。会社名を聞いて「おぉ!」と羨望のまなざしを向けられるのは、名のよく知られたホワイトな大手企業ですよね。橋場株式会社を、そういう会社にしたいんです。
どこで聞いても「橋場っていい会社だよね」と話題になるよう、企業として成長していきたいと考えています。

「物流」は人間がこの世にいる限り、なくならない仕事です。特に食品は、なくては生きていけません。コロナ禍での生活様式の変化からも、今後ますます新しい形の物流が求められていくはずです。

アトツギとして与えられた環境を最大限生かし、従業員全員が輝ける企業を目指していきます。

鹿倉 まっすぐに前を向き、その時々で「正しい」と判断した方向へ突き進む橋場さんの熱量に圧倒されました。アトツギという立場に甘んじることなく改革を続ける橋場さん、これが「次世代を担う経営者」の姿なのだと感じました。
本日はお話ありがとうございました。

橋場株式会社 橋場基則副社長インタビュー7

橋場 基則 橋場株式会社 代表取締役副社長

橋場株式会社 橋場基則副社長プロフィール

プロフィール

アパレル業界を経て、2012年、橋場株式会社に4代目アトツギとして入社。2020年副社長に就任。『価値を生み続ける企業』『時代に応じたお客様をつかみ続ける』をビジョンに掲げる。お客様とお客様を繋げ、流通並びに消費・経済の活性化に繋がる橋渡しを担える企業を目指している。

橋場株式会社HP
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鹿倉 安澄 株式会社AMU代表

株式会社AMU代表 鹿倉安澄プロフィール

プロフィール

新卒で大手外食チェーンに入社し、新規店舗立ち上げを経験。退職後、2009年にNPO法人に再就職し、月刊誌の執筆・編集を担当。2017年、半年間の職業訓練を受講し、コンテンツ制作の知識を深める。同年よりPhotoshopを使用した画像加工の職に就く。その後、広告代理店とWeb制作会社で記事作成の一連の業務とマネジメントを担当し、2021年、株式会社AMU設立。

株式会社AMU HP
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この記事を書いた人

浦和出身。法政大学文学部日本文学部卒業。
新卒で大手外食チェーンに入社し、新規店舗立ち上げを経験。
2009年、NPO法人に就職。最終的に毎月5,000部発行する月刊誌の執筆・編集を担当した。
2017年、Photoshopを使用した画像加工の職に就く。
その後、広告代理店で経理業務、Web制作会社で記事作成の一連の業務とマネジメントを担当し、2021年、株式会社AMU設立。

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